それに、私の心をモヤモヤさせるのはそれだけじゃない。

私の目に映るのは、縁が移動した席の隣にいる女の子……南(みなみ)さんが縁に話し掛けている光景。

縁は大学でよく見せる笑顔を浮かべていて、南さんと仲良さそうに話し始める。

その笑顔を自分には向けてもらえないことに寂しさが襲ってきて、私はその光景から逃げるように目線を下げた。

南さんは縁と同じ法学科の子で、男の子たちが彼女のことを「綺麗な子」だと話しているのをよく耳にする。

女の目から見ても、憧れるほど綺麗な子なんだ。

大学にいる時は縁と南さんが話している姿をよく見かけるんだけど、その姿はすごく……。


「花丘さん?」

「えっ?」


自分の名前を呼ばれハッと声の方を見ると、同じグループのメンバーの視線が私に集まっていた。


「ディスカッション始めるけど、大丈夫?」

「あ、はい。ごめんなさい。大丈夫です」


どうやらぼんやり考え込んでしまっている間に講義が始まっていたらしい。

私はぺこっと頭を下げて謝った。

ちょっと気まずいなと思いながら顔を上げると、同じ政治学科の男の子が私に向かって「ドンマイ」と口パクで言ってくれる。

その優しさに少し救われた気がして、私は「うん」と小さく笑って頷いた。



ディスカッションの時の縁も本当に凄い。

リーダーを務めていない時でも意見が出なければ何かしらの突破口を提案してディスカッションを進めていくし、意見が分かれれば両面を上手く取り込んでまとめた提案をする。

縁の頭の回転の速さやその場をまとめる力量は、学生だけではなく教授も認めるほど。

私はただそれについていくことに必死で、むしろついていけないことの方が多くて、いつも縁の凄さを目の当たりにして尊敬ばかりしていた。

大学にいる時は縁との世界の違いや差を思い知らされることばかりなのだ。