……そして。これから、法学部の共同講義。

ランチを終わらせて講義室に移動し、美紗子たちと分かれた私はこの講義で指定されている席に座っていた。

講義が始まるまでもう少し時間があり、周りはがやがやとおしゃべりをしている。

そんな中、偶然にも私の隣の席に座っているのは縁。

隣に縁がいることには慣れているというのに、何だか落ち着かなくて心臓がその存在を主張するようにドキドキと鼓動している。


「須々木(すずき)、悪い。場所代わってもらっていい? そっちでちょっと話したいことあってさ」

「あぁ、構わないよ」


講義が始まる直前、縁がふと、私から離れた位置にいる法学科の男の子に声を掛け、立ち上がった。

……これはいつものこと。

席が隣同士や真正面になってしまった時、縁はタイミングを見計らって、私を避けるようにして席替えを申し出るのだ。

……大学での縁は冷たい。

私のことを真正面から目に映そうとすらしないし、大学の中で不意に目が合ってしまえばすぐに目をそらされてしまう。

声を掛けてくることだって、一切ない。

この講義で同じグループということもあって話すこともあるけれど、その時もすごく素っ気なくて冷たさを感じるし、いつもの笑顔は絶対に見せてくれない。

他の人に見せる笑顔すら。

グループが同じになったのは偶然で、完全に不可抗力だったけど、縁は私と一切の関わりを持たないように徹底していた。

「周りには秘密で付き合う」と決めたからには仕方ないことだと言い聞かせてはいても、縁の中から私の存在がすっかり抜け落ちてしまっているように感じて、やっぱり寂しいと思うこともある。