そんなことを考えていると、会話は次の話題に切り替わる。


「午後から法学科との共同だよね? あー、憂鬱ー」

「ほんと。最初こそは楽しみで仕方なかったけどさぁ、頭いい人間ばっかで変にヘコむだけだって知ったらねぇ。ま、でも、法学科の男っていい男多くて目の保養はたくさんできるし、それを糧に頑張るしかないわ」

「そうだよねぇ。あー、ヤル気出してこ! あ、っていうか、咲世って稲葉くんと同じグループでしょ? あんな法学科のホープのイケメンと一緒にディスカッションするなんて緊張しないの?」

「っ! あ、そ、そうだね……。する、かも?」


……いろんな意味で……。

真由の何気ない問い掛けに、私の心臓が大きくドキッと跳ねたけど、どうにか平静を装う。


「だよねぇ~。やっぱり稲葉くんは遠くから見てるだけの方がいいなぁ~。会話しなきゃいけないなんて緊張するもん! 私のグループにもいけすかないイケメンはいるけど、咲世に比べたらマシなのかも~」

「……」


はぁと憂いを含んだため息を漏らした真由に私は小さく笑うしかなかった。

稲葉くん……つまり、縁と付き合っていることは仲のいいふたりにも言っていない。

追求された時に誤魔化せる自信がないから、彼氏がいることさえも言ってなくて。

「彼氏いないの?」と聞かれれば「いないよ」と答え、「彼氏作らないの?」と聞かれれば「今はまだいいかな」と誤魔化す。

縁と付き合い始める時に約束したこと、つまり、私たちが付き合っていることを周りに秘密にしておくことは、4ヶ月が経った今でも有効なんだ。