……でも、そんなのは私たちには関係なかった。

相手のことを知れば知るほど、想う気持ちが大きくなって。

言いたいことは言う、我慢はしないという約束事を決め、素のままの自分を見せていくうちに知ったのは、私たちの価値観が似ているということ。

もちろん、育ってきた環境は違うし別の人間だから、違うところだってたくさんある。

小さなケンカをすることもあったけど、私たちはお互いを受け入れていった。

この人と出逢うために今の私がいるんだなと思ってしまうほど、日を追うごとに、私は稲葉くんのことが好きになっていった。

……それはきっと、稲葉くんも同じだったと思う。





稲葉くんの部屋を訪れることにようやく慣れてきた頃、まったりとした時間をふたり過ごす。

ふわりと手を繋がれ、稲葉くんの方を見ると私をいとおしそうな目で見てくれる。

微笑み返すと、稲葉くんの手にきゅっと力がこもった。


「花丘さんさ、“縁(えん)”って感じたことある?」

「……“縁”?」


突然どうしたのかなと首を傾げる。


「そう、“縁”。ずっと考えてたんだよね。俺の“縁”はどこに繋がってるんだろうって」

「……うん」

「人にはたくさんの“縁”があると思うけど……俺の大切な“縁”は、……咲世に繋がってたんだって思ってる」

「っ!」


初めて稲葉くんの口から発せられた「咲世」という名前に心臓がドキッと跳ねる。

好きな人から自分の名前を呼ばれることがこんなにも嬉しくて幸せを感じることだなんて、初めて知った。