「っあー……」

「えっ?」


稲葉くんが突然俯き、手で顔を覆う。

驚いた私は肩を小さく震わせてしまったけど、稲葉くんから目を離せなかった。


「……ヤバい。同じ気持ちを持っててくれてたなんて、嬉しすぎて泣きそう」

「! な、泣くって……大袈裟じゃ」

「ほんとのことだし。ほら」

「!」


むくりと顔を上げた稲葉くんが私にずいっと顔を近付けてくる。

咄嗟に体を引こうとしたけど、稲葉くんの手が私の腕を柔らかく掴み、許してくれなかった。

……つまり、近距離には稲葉くんの綺麗な顔がある。

真っ直ぐ私を見つめるその瞳は稲葉くんの言う通り、少し潤んで見えた。


「これから、花丘さんのこと、たくさん教えてくれる?」

「……はい。……稲葉くんのことも、たくさん教えてください」

「うん。もちろん」


顔を合わせて私たちはふたり、笑い合った。

実感なんてものはほとんどないけど、とくとくといつもよりも早い心臓の鼓動が少しずつ実感させていく気がしていた。

……ほら。もうさっきよりも、稲葉くんのことがもっと好きになってる。