冷たい彼の情愛。

 
無性にこの想いを伝えたくなって、私は息を吸ってゆっくりと口を開く。


「……あ、あの」

「うん」

「……私、たぶん……好きな人がいるんです」

「……でも、付き合ってるやつはいないんだよね?」

「……付き合ってない、けど」

「けど?」

「彼のことをもっと知ったら、もっと好きになるんだろうなって思ってて……」

「……」


私のはっきりとしない言葉に、稲葉くんは少し険しい表情になる。


「……あの、その相手は……稲葉くん、で」

「……え?」


何を言い出すんだ、という表情に見えてしまって言葉を飲み込みそうになってしまうけど、どうにか自分の想いを言葉にする。


「……ずっと、気になってたんです。前にここで会った時から……。でも、稲葉くんのこと全然知らないし、気持ちがふわっとしてて、好きなのかどうかまだよくわからなくて。あの、私……男の人と付き合ったこと、ないから……」

「……うん」

「でも、もっと稲葉くんのことを知りたいと思うし、もっと近づきたいって思うんです。それに……共同講義の時に会えたことだって私もすごく嬉しかったし、でも目をそらされたことはすごく悲しくて……。それって、好き、ってことなのかなって……」


男の子に「好き」と伝えるのははじめてで不安しかなくて、稲葉くんの表情を窺う。

稲葉くんの表情はやっぱり、驚きが混ざっているものの、かたいまま。


「……それ、ほんと?」


問い掛けにこくんと頷く。


「……嘘なんて、つきません」

「ふはっ、……うん。花丘さんは嘘はつかない子だろうなって思ってた」


かたい表情をしていた稲葉くんが零れ落ちるような笑顔を見せてくれる。

その笑顔に、私の心臓は当然のように音をたてた。