冷たい彼の情愛。

 
ゆ、夢、なのかな。

ぎゅうと頬を摘まんでみる。

……痛い。じゃあ、現実?

自分の気持ちもまだ淡すぎて、どうしたらいいかわからないのも事実。

でも、きっと……。

ちらっと一瞬だけ稲葉くんのことを見て、すぐに目線を落とす。

……私はもっとこの人のことを好きになる予感がするんだ。

そう思うのなら、答えはひとつしかない……?


「ぷ」

「……え?」

「いや、かわいいなって思って」

「! 何が、ですか?」

「花丘さんが」

「!? そ、そんなこと……」

「あるよ。でも」

「っ!?」


稲葉くんの手が、頬を摘まんでいる私の手に触れる。

そして、私の指をそっと緩めた。


「頬を摘まむのはダメ。女の子が顔に傷作っちゃダメだからね」

「……はい」


私の頷きに笑顔で頷いてくれた稲葉くんの手から、私の手がするりと解放される。

何だか寂しさが私を襲うけれど、私は稲葉くんの表情に釘付けだった。

……この笑顔、すごく好き。

そう自覚すると、私の胸がドキドキと高鳴っていく。

稲葉くんは他にどんな表情をするのかな……?

どんな性格かだってまだよく知らないから、稲葉くんのことをもっといろいろ知りたい。

さっき感じた手のぬくもりだって、もっと感じてみたい。

……そっか、この気持ちが答えなんだ。

ふんわりとあった気持ちが少しずつ恋の形になっていく。