「確かにほとんど話したことはないけど、だからこそ花丘さんのことをもっと知りたい。2回目に会えた時はすごく嬉しくて、講義室で会った時も“運命だ”なんて浮かれるのを態度に出さないでいるのに必死で……でもずっと気になって仕方なくて。初めて会った時から花丘さんのことが忘れられなかった。
ほとんど話したこともないのに告白しても引かれるだけだって抑えてたけど、もう気持ちが止まらないんだ。花丘さんにもっと近付きたい。……本気だよ」
「っ」
「好きな男がいないなら、俺と付き合ってほしい」
言葉からも表情からも、稲葉くんの本気さがビリビリと伝わってくる。
これで「冗談でした!」なんて言われたら、どんな一流役者だと思ってしまうほどに。
……きっと、本当なんだと思う。
……ううん。本当かどうかはやっぱり確信できないけど、本当だと思いたいっていう私がここにいる。
気持ちを落ち着かせる時間が欲しくて、私はおずおずと右手をパーに開いて稲葉くんに向けた。
「…………ご、5分、待ってもらえますか?」
「……うん、もちろん」
完全にキャパオーバーだ……。
実を言うと、私は今までの人生で男の子と付き合ったことが一度もない。
そしてこんな風に告白もされたことも、ない。
だから友達の恋バナを聞くことはあっても、自分の話はほとんどしたことがなくて。
20年近く生きていれば、いいなと思う男の子だっていたけど、自分から行動する勇気なんてなかったし、いつだって見つめるだけでその淡い恋は終わってた。
さっき生まれた稲葉くんへのふわっとした想いだって、これまでと同じように自然に終わっていくんだろうって思ってたんだ……。

