稲葉くんの口がゆっくりと開く。
「……俺、花丘さんのこと、好きになった」
「……え?」
「好きです。俺と付き合ってください。」
「……!?」
ぺこっと頭を下げられるけど、一体何が起こっているのかわからない。
……今、告白された、の?
でもどうして、私が稲葉くんに告白されてるの?
あんなに法学科の人たちに囲まれて慕われていて、学科の違う美紗子が知ってるほどの有名な人が……私を、好き?
たった2回会っただけで惹かれる何かが私にあるわけもないのに……。
はた、と気付く。
もしかして、からかわれてる……?
2回目にぶつかった時だって「鼻が曲がってる」ってからかわれたし……。
でも、これが冗談なら、さすがにたちが悪くない?
それに、あんな笑顔を見せてくれる人がそんな酷いことをするのかな……?
疑問ばかりが浮かんで、答えなんてわかるはずもなく呆然と稲葉くんのことを見ていると、頭を上げた稲葉くんと目が合う。
その表情は少し緊張しているように見えた。
「……初めてぶつかった日、花丘さんに一目惚れした。この先、この子とずっと一緒に居たい、って瞬間的に思ったんだ」
「う、嘘……」
一目惚れされるような容姿なんて持ち合わせてないのに、どうしてそうなるの……。
ついぽろりと本音が出てしまうと、稲葉くんの瞳が力を秘めた気がした。
「嘘じゃない。ほんとだよ」
真っ直ぐ私を貫く稲葉くんの瞳は嘘偽りのないもので。
目をそらすことができない。

