冷たい彼の情愛。

 
「……あ、あの」

「ん?」

「私も、同じこと、思ってて……」

「同じこと?」

「あの……磁石みたい、っていうの……」

「え?」


私の言葉に、稲葉くんが驚いた表情を浮かべる。

あ、うそ、私、答え方間違えた……?


「……ほんとに?」

「は、はい……。私もぶつかるの、あなただけで……」

「……引かれると思ってたのに……」

「え?」

「あ、いや、そっか……」

「……?」


私から目線をそらしてもごもごと何かを言う稲葉くんの綺麗な横顔を見つめていると、稲葉くんがふと表情を引き締めて、私の顔を真っ直ぐ見てきた。


「……あのさ。今って、時間ある?」

「え? はい、大丈夫、ですけど……」

「ちょっと話さない?」

「えっ? むぐっ」

「しーっ。静かにしないと、また怒られちゃうよ? くくっ」

「!」


くすくすと笑う彼の大きな手は私の口をすっぽりと覆っていて。

軽く触れられているだけなのに、そこから熱が全身に広がっていって、心臓も壊れそうなくらい鼓動している。

……どうして、稲葉くんが私と話そうなんて言ってくるの?

疑問は浮かんでくるけれど、稲葉くんが書庫の奥の方を指差して「あっち、行こ?」と言って歩き出したので、私は体が動くまま、その後を追った。