冷たい彼の情愛。

 
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ある日、レポートで使えそうな文献を探すために、私は書庫をさ迷っていた。

んー……、資料検索で調べた感じでは、この辺りにあるはずなんだけどな……。

本棚に沿って横歩きしながら本の背表紙タイトルをつつつと追うことに夢中になっていると、どんっと肩に思いっきり衝撃が走った。


「きゃっ!」

「わっとと!」


バランスを崩した体に力がかかり、一瞬にして私の体がぬくもりに包まれる。


「ごめ……あれっ?」

「……あっ!」


私を支えてくれていた腕の力が緩んで見上げた先には……彼、稲葉くんの姿。

もうきっと話すこともないだろうと思っていた存在が目の前にいた。

……まさか、またここで会えるなんて……。

二度あることは三度あるなんて言葉もあるけれど、何だか奇跡のように感じてしまう。

稲葉くんに会えたというだけで感動してしまって、私はぼんやりとその姿を見つめていた。

やっぱり私のこと覚えてくれていないのかな……。


「……くくっ」

「え?」


稲葉くんが突然可笑しそうに吹き出して、私は目を丸くする。


「またぶつかっちゃったね」

「! は、はい」


私のこと覚えててくれてる……?

じゃあ、講義室では気付かなかっただけってこと?

あ、もしかして、別人、なんてことはないよね?

……双子、とか……? よく似た人、とか……?

だって、こんなにも表情も雰囲気も違うから……。