やはりあくまでも予定は予定だったらしく、またやるのならとことんまでやりたいという美澄自身の熱意から、気が付けば3年が5年、5年が6年と過ぎていたというわけだ。


 …やっぱり、修司に待っていたもらおうなんて、とんでもない話だったわよね。




 「先輩、日本に残してきた恋人とかいらっしゃらないんですか?」




 あまりにタイムリーなタイミングでの話題に、ドキリと美澄が隣の後輩へと視線を向ける。


 サングラス越しにはわからないだろうけれど、かなり動揺していた。




 「…なぜ?」

 「いえ、先輩ってあちらでも凄くモテてたのに、恋人の一人も作らなくて、きっと日本に恋人がいるんだろうって、噂でしたから」

 「ハァ…あなたたちって人のいないところで、なにをそんな噂をしていたのよ」

 「ホンの好奇心ですよ。先輩は脇目も振らずに仕事に打ち込んでらしたから、そんな話には無縁だったでしょうけど、女子っていうのはどんなに小さな頃からだって、そういう話が好きなんです」

 「そう?」




 残念ながら、勉強一筋、半ば周囲にハブられていた美澄には覚えのない習性だ。




 「先輩、今日、明日オフを取られていましたよね?」
 
 「ええ。あなたは会社に直帰だったかしら?」




 とんでもない、と後輩が手を振り否定をする。




 「十何時間も飛行機に閉じ込められて、すぐに仕事だなんてマゾなのは、先輩くらいなものですよ」




 なにげにズケズケいう後輩だった。


 それもそうかもしれない。


 美澄との付き合いも、すでに2年目で、この日本への帰国の辞令も同時だった。




 「だから、私もオフよ」

 「ああ、そうですね。どうします?このあと、私の方は兄が迎えに来てくれることになってるんですけど、よければ、東京まで同乗されますか?」

 「ありがとう。私も迎えを頼んでるから」

 「え?やっぱり恋人ですか?」