「まずは、食事はゆったりとたくさんの人達と食べる」

 「へぇ?」

 「アメリカなんかだと、マックなんかのファーストフードがポピュラーだけど、イタリアの食文化はスローフードが基本だ。もちろんイタリアにもマクドナルドはある。けど、彼らは早くて安いことよりも、どれだけ余裕を持つか、そこに価値を認める」

 「なるほど」

 「だから、食事はパソコンやテレビの前での、ながら食いではなく、家族と賑やかに楽しく食べることに重点を置いている」 

 「素敵ね」

 「ああ。食べ物は天然で、本物の地元産。…日本じゃ、望むべくもないけどね」




 肩を竦める修司に、美澄も「そうね」、と同意する。




 「酒は飲みすぎず、楽しい範囲で」




 美澄は耳が痛い。


 滅多にないことだが、それでもつい過ごして次の日に後悔するハメに陥ることも少なくないからだ。


 もちろん、修司は皮肉で言っているわけではなかった…今は。




 「甘いものもたくさんは食べない。特別な時にだけ、自分へのご褒美としてちょっとだけ食べる」

 「う~ん、イタリアって言えばデザートの国ってイメージがあるのにね」

 「そうだな。ジェラード、パイ、チョコレート。酒好きのくせに、けっこう甘いものも美澄は好きだよな?」

 「…両刀使いですみません」




 おどけて舌を出す。


 それに修司もクスリと笑って、




 「もしかして、お前って将来は樽みたいな体型になるのかも?…いてっ」




 とんでもないことを言い出す修司の腕をつねって、悲鳴を上げさせる。


 けっこう本気で痛かったらしく、目の端に涙が浮かんでいた。


 しかし、くくくっと肩が揺れていて、どうやらその涙は痛みというよりも、楽しくて浮かんでしまった涙らしい。




 「…マゾなんじゃない?」

 「失礼な」

 「失礼なのは、あなたの方でしょ?」