「…………」

 「…………」




 何を言えばいいのか、頭の中が上手くまとまらない。

 何度も言葉を飲んでは、口を開きかけ、迷った末に出た言葉は自分でも意外なものだった。




 「結婚は……」




 この期に及んで、自分は何を言おうというのだろう。


 自分の決断を修司に押し付けて、責任逃れをまだしたいというのだろうか。




 「俺も急な話で、まだ混乱してる」

 「……そうよね」

 「少し、考えさせてくれ」




 ソファから立ち上がって、寝室へと向かった修司の背中は、美澄を拒絶しているようにも思えた。




 「お前は…、もし気まずいようなら客間を使ってくれ」

 「…………」




 わかったとは言えなかった。


 かといって、今修司の部屋へと押し入ってもいいものだろうか。


 そして、また自分もそれを望んでいるのか、それさえも美澄にはわからなかった。


 ただ、無性に寂しかった。


 さっきまであんなに幸せだったのに。


 たぶんこの寂しさと…哀しみを修司も感じている。


 いや、きっと美澄以上に。


 …ごめんなさい。


 我知らず謝ってしまう。


 それなのに強欲な自分は、こんなにも愛していて愛してくれている修司だけで満足することができないのだ。


 この修司の部屋に来るときはいつも一緒のベッドで寄り添って眠っていた。


 熱い情熱に支配された夜も、穏やかな眠りに微睡んだ夜も、いつもいつも彼の腕に抱きしめられ、この世の全てから守られているような安心の中で眠っていたのに。


 …修司。


 バタンと閉められたドアの向こう、今彼はどんな顔をしているのかと思うにつれ、寂寥が増してしまう。


 美澄の頬をポロリと一粒の涙が伝った。




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