そんな怯懦の生んだ誘惑に負けてしまいそうになる。




 「へぇ、表参道のあたりも最近行ってないけど、知らないあいだにけっこう通りなんか様変わりしてるもんなんだな」




 居間のソファに座ってテレビを見ている修司の声に、手を拭いながら美澄も修司のそばに歩み寄って、テレビへと視線を移す。


 長年遊ぶ暇もなく、仕事に力を注ぐ傍ら、未来への夢への準備を着々と進めていた修司にとっては、驚くような光景も、仕事でたびたび日本各地、特に東京周辺を飛び回っている美澄にとっては特に珍しい光景でもなかった。




 「…おじさん臭いセリフ」

 「言うねぇ」




 美澄の声に、顔を仰向けて振り返った修司の秀麗な頬に手を沿え、そっとくちづけを落とす。


 それに黙って目を伏せ、受け入れてくれる修司の綺麗な顔が好きだと改めて思う。




 「…お前って、自分からのリアクションは大丈夫なんだよな」

 「そうかな?」

 「俺からだと、些細なことでも顔を赤くしたり、すぐに動揺するくせにこういうのは大丈夫だろ?」




 言われて見ればそうかもしれない。


 修司のやることなすことにトキメめいて挙動不審な自分になってしまうけれど、それは決まって受動的な立場になった時に限る。


 思えば、普段もそうだった。


 突発的な出来事は嫌い。


 常に自分のペースで動きたいから、何事も先回りして準備万端を心がけてきたように思う。




 「片付け終わった?」

 「うん、私がやったことって、食器洗い機にお皿をセットするくらいのことだもの」

 「別に効率があがるなら、それで十分だろ?洗濯するのに洗濯機があるのと同じ。お前んところも食器洗い機つければいいのに」

 「…そもそも外食メインだし」

 「ダメダメだな」

 「ぐうの音もでません」




 笑い合って、差し出される手に手を重ね、促されるままに修司の横へと腰を下ろす。


 自然に抱き寄せられて、その逞しい肩に頭を乗せる。


 こうした時間が美澄は一番好きだ。