「ふぁーあ」
朝からずっとあくびが止まらない。
眠くて眠くて仕方ない。
昨日は、鈴本くんが帰るまで大ちゃんの部屋にいたし。
布団に入って寝たのは、ちょうど2時。
今、かなりまぶた重いけど頑張ろう。
「おそろしいわねあんた」
目の前の席の舞は、引き気味に笑う。
おそらく、でっかいあくびで口が開いたのと、目の下のクマを見たからであろう。
すると、急にあたしの頬に冷たい感触が。
「ひゃっ!」
あたしは驚いて席を立ち上がる。
後ずさり警戒。
それと同時に、笑い声がした。
「あははっ、大丈夫か」
犯人は鈴本くんだった。
しかも、舞まで一緒になって笑う。
手には、買ったばっかりのいちごオレと書かれた紙パック。
まさかこれを後ろからほっぺたに当てるなんて、不意打ちすぎ。
「ごめんごめん、これやるよ」
もしかして、この飲み物はあたしにくれる物だったの?
彼の意外な優しさにびっくり。
「昨日話し込んだしさ」
「ほんと?」
鈴本くんに手渡され、あたしは喜んで受け取る。
いつの間にか、眠気がどこかに吹っ飛んでいた。
大ちゃんみたいに同じことするんだな。
昨日とはちょっと違う一面を見れた。
「ありがと!あたしいちご好きなんだー」
飲み物を見つめながら笑っていると、変なものを見るかのように鈴本くんも笑った。
なんだ、優しい目を向けることもできるんだ。
無表情の、ロボットじゃないのね。
「あんた、いつの間に五月くんと仲良くなったの?」
「うん、昨日ね」
鈴本くんは、舞にペコリと頭を軽く下げる。
舞はうつむき、「どうも」と返事をする。
同じクラスで顔見知りなのに、変なの。
でも、なんだかいつもの舞じゃない気がした。
どうしたんだろう。
「さの、おっはよー」
教室に大きな声。
朝からうるさいなぁ。
遅めに登校してきた大ちゃん。
彼ものん気にあくびをする。
ふと、大ちゃんはあたしと鈴本くんを交互に見つめた。
珍しい組み合わせだしね。
今まで関わりなんかなかったのに、一緒にいることが不思議なんだろう。
「あれ、2人そんなに仲良かったっけ?」
「ううん」
「おい」
首を横に振ったあたしを見て、鈴本くんは顔が怖くなる。
さっきまで笑顔だったのに。
「あ、これ鈴本くんにもらったんだー」
あたしは大ちゃんにいちごオレを見せた。
すると、彼はギョッと驚いた顔をする。
「どうしたの?」
「オレもさのにいちごオレ持ってきたのに」
一足遅かったと、カバンからいちごオレを出した大ちゃん。
まったく鈴本くんと同じ飲み物だった。
「なんだよもー」
鈴本くんに先を越され、悔しそうな顔をする。
「でも、ありがとう。大ちゃんのはお昼に飲むね!」
あたしは笑い、大ちゃんから飲み物を受け取る。
だって、せっかく彼があたしのために買ってくれたんだもん。
「ほらっ、そんな顔しないの!」
すねる大ちゃんのほっぺをぎゅっとつまむ。
びよーんと伸びてリスみたい。
すると、大ちゃんはお返しなのか、あたしのほっぺもつまんだ。
「い...いひゃい」
「ふーんだ、ひゃなさないからだじょ」
大ちゃんは離さないからだぞって言いたいみたい。
あたしはほっぺをつかまれたまま笑う。
笑うともっとほっぺが痛かった。
「どこの子どもだよ」
鈴本くんは苦笑い。
でも、どこかつまらなさそうな気がした。