高校に入学して2ヶ月。
やっと慣れてきた生活、もう見飽きた制服。
だけどあたし真城さのには、飽きないものがある。
「おいしー!」
それは甘いお菓子!
とにかく甘いものには目がなくて、よく友達とお菓子を交換し合っている。
だからクラスのみんなには、あたし=お菓子っていうつながりが出来ちゃってるわけで。
すごく夢中になっちゃうくらい食べている。
「元気ねあんた」
「だっておいしいんだもん」
あたしの隣で、かなり苦笑いの親友尾崎舞。
きれいな黒髪でショートカット。
美人だからとても可愛い。
おまけに委員長もしているし、完璧すぎて気が引けちゃう。
毎回ドジなあたしを助けてくれるし大好きなんだ。
大好きなプリンを頬張りながら、だんだんテンションが高くなっていく。
「太るぞさの」
急に上から声が降りかかる。
すると手が伸びてきて、机にいちごの紙パックのジュースが置かれた。
手の主を見ると、そこにはいつもの見慣れた顔。
「大ちゃん!あたしにくれるの!?」
「さっき買ってきた」
「ありがとう!」
ジュースの差し入れをくれたのは小野大輝。
幼稚園からずっと今まで一緒で、幼馴染なの。
あたしは大ちゃんって呼んでいる。
彼は優しいしいたずらっ子。頼りになるおにいちゃんって感じ。
「太るって失礼でしょー」
ほっぺを膨らましてにらんでいると、大ちゃんは笑う。
「怒んなって、痩せ型なのは認めてやるよ」
「そこだけ?」
「ま、あとは身長だけかな」
「ちょっとー」
あたしは席を立ち、彼にデコピンしようとした。
だけど彼は180センチの長身だから届かない。
背伸びしても首が痛いだけだし、見下ろされてばかり。
とっても悔しい。
「でかいよ大ちゃん」
「ちっちゃいな~」
「もう少ししゃがんで」
「無理言うな」
25センチもの彼が頭を撫でる。
子ども扱いにはもう慣れた。
「ね、そのプリン欲しいんだけど」
大ちゃんは机にあるプリンを見つめる。
しかも目がキラキラ。
実をいうと大ちゃんもお菓子が大好き。
だからこそあたしたち気が合うんだよね。
スイーツ王子って呼ばれるほど、女の子に人気。
もともと彼はかっこいいし、モテている。
「いいよ、はいっ」
プリンを一口彼の口に運ぶ。
食べたあと、「うまーっ」と幸せそうに笑った。
その姿はとても無邪気で子どものよう。
すごく可愛い。
「あんたら、よく間接キスなんてできるわね」
「え、普通じゃない?」
一部始終を見ていた舞は、とても呆れていた。
あたしは椅子に座り、プリンを食べるのを再開する。
「普通なわけないでしょ。バカなの」
「ひどいよ舞~」
「はいはい」
軽く流されたうえにため息。
まぁ、舞のサバサバした性格だからしょうがない。
そこが好きなんだけど。
「さの、いちごのポッキー持ってきた」
「ほんと!?」
「好きだろ?」
「うん!」
あたしにお菓子の箱を手渡した大ちゃん。
実はいちごが大好物なんだよね。
それを分かっててくれるんだ。
何よりも先に、あたしなんかに合わせてくれるところが大ちゃんのいいところ。
「大輝くんも食べるわねー」
「だって好きなんだもん」
笑顔の大ちゃんは、あたしの前の席に座った。
やっぱり子どもだな。
そう笑いながら、もらったお菓子の箱を開ける。
「なんだよ、笑ってんじゃねぇよ」
「笑ってない」
「ニヤニヤしてるけど?」
「してないってばー」
「いやしてるね、かなりのアホづらだもん」
大ちゃんは、あたしも髪をぐしゃぐしゃして乱す。
すっごくセットしてきたのに台無し。
「もうっ、ひどいよ!」
お返しにあたしも髪をぐしゃぐしゃしてあげた。
「やめろよ!」
やめろとか言いながら。全然抵抗していない。
大ちゃんは意地悪だ。
舞とか、他の女の子には優しいのに。
元々あたしがおっちょこちょいだから、いじりやすいんだと思うけど。
「あーあ、今日チョコ持ってきたんだけど、一人で食べちゃおー」
あたしはカバンから、持ってきていたチョコを出して見せる。
そうした途端、大ちゃんが焦った顔をする。
「ちょ、ちょっと待とうかさの」
「ん?」
「約束が違うんだけど」
「あれ、そうだっけなー」
あたしは首をかしげてとぼける。
大ちゃんが困っているのも無理ない。
あたしたちにはちっちゃい頃からの約束があるから。
その約束を破られそうになってるから、泣きそうになっていた。
「もうバカにしない?」
「うん、ごめんなさい...」
子犬のように縮こまった大ちゃん。
面白いからここまでにしてあげよう。
「はい、半分こ!」
「やったー!」
あたしたちの約束それは、何でも半分こするというものだ。
いたって普通だけど、あたしたちにとっては大事な約束。
お菓子を食べあっている時間がすごく幸せ。
ほぼ毎日お菓子を交換したり半分こする。
こんなんで息ぴったりだから、この前なんて、付き合っているのかと聞かれたくらい。
大ちゃんは幼馴染だから、好きとかそういう感情はない。
仲がいいだけで、付き合ってるって思うのかな?
「そういやさの、和田に告白されたんだって?」
一瞬ドキッとして、食べかけのチョコを落としそうになった。
なんで大ちゃんが知ってるの!?
この話は
舞しか知らないはず。
「まぁ...その、断るよね」
和田くんとは同じクラス。
席も近いから気まずかった。
忘れかけてたのに、思い出しちゃったじゃん。
付き合うなんて、好きじゃないと無理。
相手にも失礼でしょ?
「いい奴だと思うけどなー」
「うーん...」
話したことなかったし、接点もなかったのに。
正直男の子の気持ちが分からない。
だけど、大ちゃんが特別ってことはなんとなく分かる。
昔からずっといたせいだ。
「大ちゃんだっていっぱい告白されてるよね?」
「だって、好きじゃない子と付き合っても可哀想でしょ」
あたしと同じこと言ってる。
まぁ、確かにそうだよね。
「大ちゃんには好きな人はいないの?」
チョコをマヌケな顔で食べる大ちゃんに聞く。
「いないよ、付き合うとかそういうの考えてねぇし」
「意外」
「そっかなー?」
女子にすごく話しかけられるし、好きになるきっかけもあると思うのにな。