社長の前で怒鳴ったのは今日が初めてだったなと、そんなどうでもいいことを思った。

「…それ、本気で言ってるのか?」

驚いたと言うように聞いてきた社長に、
「社長が望むなら、辞表を出します」

あたしは答えた。

社長は首を横に振ると、
「悪いけど、俺は君を辞めさせるつもりはないんだ。

前も言ったと思うけど、君は優秀でまじめだ。

秘書として心の底から気に入ってるから、辞めさせるつもりはない。

もう少し言うならば、女性としても君のことを気に入ってる」

「ジョーダンも大概にしてください!」

あたしは言い返した。

「あたしは社長のものになりません!」

あなたのその気持ちは、はっきり言って迷惑です!」

「夏梅…」

あたしの名前を呼んだ社長の声を無視すると、いつの間にかまたじゅうたんのうえに落ちてしまっていた手帳を拾った。