社長はあたしの顔を覗き込むと、
「俺の名前を覚えていない、と言う訳じゃないよな?」
と、聞いてきた。

茶色の瞳から少しだけ距離を置こうとしたら、
「逃げるな」

人差し指であごをクイッとあげられた。

距離が近い。

話をするだけなのに、ましてや逃げる意思もないのに、何でこんなにも近い距離で社長の顔を見ないといけないのだろう。

「小野直孝代表取締役社長、ですよね。

このあたしが秘書を務めている社長の名前をお忘れになる訳がございません」

茶色の瞳を見ながら、あたしは言った。

「じゃあ、呼んでくれるよな?」

そう言った社長に、
「…嫌だと言ったら、どうしますか?」

あたしは聞いた。