藍田夏梅、26歳。

大学卒業と同時に『小野製作所』の秘書課に入社して、早4年が経った。

最初の1~2年は電話受付や事務作業などと主に雑用を担当していた。

雑用は嫌いではなかったし、周りにもまじめだとか上手だとかと評価されるので特に不満はなかった。

そんな現状に満足しつつ、迎えた入社3年目――あたしに転機が訪れた。

「藍田さん、ちょっといいかしら?」

秘書課の中で最年長――いわゆる、お局様と呼ばれるヤツだ――の福山さんに呼ばれたあたしは彼女のデスクに歩み寄った。

「何でしょうか?」

そう聞いたあたしに、
「あなた、来週から社長の秘書をお願いできるかしら?」

福山さんが言った。

その言葉に、
「えっ?」

あたしは聞き返した。