藍田春弥(アイダハルヤ)、29歳。

『小野製作所』のライバルである『霧ヶ峰電気』で働いている彼はあたしの兄で、たった1人の身内だ。

あたしが小学1年生の時、両親が交通事故で亡くなった。

残された兄とあたしは母方の妹に引き取られた。

母方の妹は本当にどうしようもない人で、兄とあたしはいつも被害を受けていた。

あたしたちをほったらかして男をとっかえひっかえ、つきあっている男を家に連れ込んでは見たくないものを見させられたり、時には男から暴力を振るわれることもあった。

そんな地獄のような生活の中、兄はいつもあたしを守ってくれていた。

――もう少しの辛抱だからな

泣いているあたしを兄は抱きしめながら何度も言い聞かせてくれた。

そして兄は高校に入学したのと同時に、バイトに明け暮れた。

家にお金を入れながらコツコツと貯金をして、2人で家を出る計画を立てたのだった。