――俺のものになれよ

社長の言葉が頭の中に浮かんできた。

「夏梅?」

あたしの名前を呼んで顔を覗き込んできた彼に、
「はい」

USBメモリーを渡した。

彼はあたしの手からそれを受け取ると、
「いつもすまないな」

呟くように、だけど申し訳なさそうに言った。

「夏梅、嫌なら嫌だっていつでも言ってくれればいいから。

僕は実の妹がこんなことを…」

「お兄ちゃん」

彼をさえぎるように呼んだ後、あたしは首を横に振った。

「あたしは、自分から望んで産業スパイをやっているの。

1度も嫌だなんて思ったことなんてないわ」

彼――兄はあたしのヒーローだ。

あたしは、そんなヒーローを助けるために産業スパイをしているのだから。