「俺はね、すごくワガママなヤツなんだ」


唐突に、坂瀬くんはそう言った。


「ワガママ...?」


その真意が分からず、私は聞き返す。


「そう。ワガママ」


それ以上は、何も言わないような空気だった。
ただ、ワガママなんだということだけを伝えられ、私は困惑を表情に浮かべていた。


「...俺は、同じ景色が見たかった。颯太と、白河さんと、そして誰より、遊佐さんと、同じ景色が見たかった」


その言葉の中に、どんな思いが込められているのか。
私には、知る由もない。

今、私と坂瀬くんの見る世界は違うのだろうか。

二人きりの物理室。
日差しがカーテンの隙間から漏れて、チラチラと不定期に私達を照らす。

そんな景色は、坂瀬くんにとっては違う景色なのだろうか。

そこまで思って思い出した、青柳颯太の言葉。
坂瀬くんが私と同じ景色を見たいと望む前にその気持ちを忘れさせなきゃいけない。
確かそんな言葉を言われた。

今はもう、きっと青柳颯太はそんなことを思っていないはず。

坂瀬くんを諦めるな、そう言っていたから。
でも、今坂瀬くんは私と同じ景色を見たいと望んでいるようだった。

詳しいことは分からない。
でも、それはきっとあまり良いことではないことは、私にも分かっていた。


「...颯太に言っておいてくれないかな。俺はもう、颯太との約束は守れないかもしれないって」

「どういうこと...?」

「颯太に教えてもらって。俺に許可をもらったって言えば、きっと教えてくれるよ」


淡々と話す言葉の端々に、どこか悲しげな空気を纏う坂瀬くんの言葉。


「あっ、そうだ。颯太は心配性で慌てん坊だから、『心配しないで、俺は早まったりしないから』って言っておいてね」


坂瀬くんはそう言って無邪気に笑い、私から目を逸らした。

それから私達は、言葉を交わさなかった。