世界は案外、君を笑顔にするために必死だったりする。-deadly dull-

｢しばらく、アイツには関わらないでくれ｣


言われた言葉の意味を、理解出来ずにいた。

放課後、西日が差し込む物理室。



｢は？｣


一言、そう返すしか出来なかった。


｢だから、天馬としばらく関わらないで欲しいんだよ。少なくとも、天馬がお前と同じものに魅了されなくなるまで｣

｢意味分かんない。なんなの、突然｣

｢頼むから｣


面と向かって話した回数は少ない。
だけど、その中でも真剣な目で青柳颯太は言った。
鋭いだけじゃない、威圧的なだけじゃない。
どこか、懇願するようなその目は、ただの意地悪を言っているわけではないことが分かる。


｢なんでそんなことアンタに言われなきゃいけないの。坂瀬くんと趣味が合って話してる、それの何がいけないの｣


ただ、私はそれを素直に受け入れないでいた。

坂瀬くんと話すのは楽しい。
坂瀬くんのことを知りたい。
坂瀬くんのことが、気になって。
いつの間にか、放っておきたくなくなった。

恋とか、そんなのはしたことがないから分からない。
恋の段階の踏み方なんて知らない。
丁度いい早さなんて知らない。
ただ、今はこうして話していたい。


｢天馬がお前に執着してしまう前にお前と天馬を離さなきゃいけない。天馬がお前と同じ景色を見たいと願う前に、天馬にその気持ちを忘れさせなければいけない｣


まるで、ロボットのようだと思った。
見えない使命感に指図されるように、青柳颯太はそう言った。


｢もうアイツに、何も見せないでくれ｣

｢待ってよ、意味分かんない。何でもいいから教えてよ。坂瀬くんのことでもいい、アンタと坂瀬くんの関係でもいい。何も知らされないままじゃ、何も納得出来ない｣

｢...今は、何も言えない。でも、頼むからアイツに、世界の美しさを教えないでくれ。お前らが綺麗だと思うものを、アイツに押し付けないでくれ｣


それだけ言って、青柳颯太は物理室を出て行った。

その表情が、辛そうで泣きそうだったように見えたのは、きっと見間違いではなかった。