「なにそれ」

「いや、なんか、あんなにたくさんの友達に囲まれててさ、みんな坂瀬くんのこと好きなんだなぁって、感じられるじゃん。ほら、坂瀬くんの周りの人達の表情とか見ると、そんな感じ」


翡翠らしくない、なんだかまとまっていない文章。


「なんか、能力者みたいなこと言うね」

「え?」

「みんなの"坂瀬くん好きですオーラ"を感じてます、みたいな」

「あれぇ、知らなかった?私って実は...」

「はいはい、凄いねー、翡翠ー」


おどけたような翡翠の言葉を適当に流す。


「でもね、日和ちゃんのオーラも感じてるんだよ」

「何、まだ続けるの?能力者ごっこ」


能力を持っている設定を続ける翡翠に、私は呆れたように返す。


「日和ちゃんは"いい人オーラ"」

「はぁ?」

「私がこんなにふざけられるの、日和ちゃんの前でだけだよ」


翡翠はそう言って微笑む。


「なんでそんな恥ずかしいこと言えるんだか...」


そう言いながらも、私は緩んでしまう頬を顔を背けて隠した。

翡翠の前で素直に喜べない。
翡翠みたいに純粋で恥ずかしいことを普通に言える子なんて、今時少ないと思う。

その中でも私は、特に。
誰かに褒められたり、誰かに気持ちを真っ直ぐに届けるのが、苦手。
少しひねくれてるのかな、私って。


「素直じゃない日和ちゃんも可愛いよー」


おどけたような、でも私の心を読んだかのような言葉を紡ぐ翡翠の声に、一瞬翡翠が本当に能力者なんじゃないかと、馬鹿みたいな考えが浮かんだ。