「もう、いつもボーッとしてるんだから、日和ちゃん」


そう言って翡翠は卵焼きを口に放り込んだ。


「仕方ないでしょ、授業中って暇なの」

「あはは、日和ちゃんらしいね」


日和は小さく笑って、「あ」と一文字口から零した。


「何?」

「坂瀬くん」


翡翠の視線の先には、私達の方に向かってくる坂瀬くん。


「昼食中に悪いな」

「いや、別に。どうしたの?」

「ちょっと話したくて。いいかな」

「じゃあ私、ちょっとジュース買ってくるよ」

「いや、白河さんもいていいよ」

「ううん。喉乾いちゃったから」


じゃあ、と翡翠は一言言って席を立ち、振り返ってわざとらしく私にウインクをした。

まったく、古い少女漫画でも読んだのだろうか。


「おかしいね、白河さん。水筒持ってきてるのに」


坂瀬くんは開いたままの翡翠の鞄の中を見て言った。


「いらない気を回されちゃったみたいだね」

「ん?」

「ううん、何でもない。それより話って?」

「これ、遊佐さんにも読んでもらいたくて」


そう言って坂瀬くんは、授業中に読んでいたあの本を机に置いた。