「えっ...」

「やっぱ遊佐さんがハマるだけあるよね。すっげぇ内容濃くて、俺が今まで見た小説の中で一番面白かった。特に好きなのが主人公が初めて虹を見るシーン!主人公が涙を浮かべずに微笑むとこ、すげぇ感動した。あの時、自分のことを許したんだよな、きっと」


興奮したように坂瀬くんは話す。
それに、小説をよく読んでいるのが分かる話だった。


「読んだの?全部...私、これ読むのに3日かかったんだけど...」

「夢中になっちゃってね、一気に読んじゃったよ。時間も忘れちゃうくらい」


そう言って坂瀬くんはふわぁ、と間抜けな欠伸をした。

寝る時間を削ってまで読んだのだろうか。

本当に、そこまでして...?


「私も、そのシーンが好きなんだ」


驚きつつも、私はそう返した。
私の返事に、坂瀬くんは嬉しそうに笑う。


「また教えてよ、遊佐さんがハマった本」


そう言って坂瀬くんは、自分の席に戻っていく。

そんな坂瀬くんに、私は更に興味を引かれた。


「なぁ、天馬。テスト勉強したか?」

「え...?」

「今日、数学の小テスト」

「...忘れてた」


本に夢中になりすぎた...と小さく呟く坂瀬くんを見て、笑ってしまう。

カッコよくて優しくて。
だけど、完璧じゃない。

どこか抜けてて、何かに夢中になると他が見えなくなってしまうような、そんな坂瀬くんが、私は人間として好きになった。