「...コイツに傷つけられた者は、コイツに色を奪われる。言い換えれば、天馬が見ていた世界と同じ世界が見えるようになる」

「...つまり、傷つけられた者の視界は、輪郭だけの世界に、なるんだよ」


青柳颯太は顔を歪ませながらそう言った。


「元々そんな力は天馬にはなかった。でも、様々な感情を得てしまったことで、天馬の体の中で何か反応が起きたんだろうな。劣等感、妬み。多分、そんな感情の中で、天馬は人から色を奪う力を得てしまったんだろう」


男の言葉は、驚くべきものだった。


「...遊佐、悪かった」

「何で謝るの」

「...こんなところに連れてきたからだ。...俺はお前を犠牲にしたくない。元から...元から俺が天馬に傷つけられていればよかった。遊佐、まだ視界が変わってねぇってことは、まだ色を失うほどはやられてねぇってことだ。今のうちに逃げろ」

「...何言ってんの」

「俺だけで...俺だけで十分だったんだ」


青柳颯太の言葉に、苛立ちが募る。


「...だから、私は...」


呼吸が乱れる。
頭がクラクラする。


「アンタみたいな自己犠牲なヤツ、大っ嫌いなんだよ...!」


自己犠牲じゃないと、青柳颯太は前に言っていた。

それでも彼の中で、自己犠牲な癖は治っていないようだ。

他人を幸せにするために、自分を不幸に突き落とそうとする。
自分なんかどうなってもいい、そんな、卑屈な考えを持って、他人を守った気になって。

そんなの、許すわけない。

私は天馬の元に走る。

天馬は、きっと帰ってきてくれると信じて。