壁から覗き見る。

そこには天馬と、一人の男が立っていた。

白衣を着た男は、40代後半くらいだろうか。


「...こんな日が来ると思っていたんだ」


男はそう言って、天馬を見る。


「...そうですか。俺は、こんな日来ないと思ってました」


天馬の声は、冷めていた。
でも、相変わらず少し高くて、柔らかい雰囲気を纏っていた。


「俺は、金平糖を食べる日が来るなんて思ってなかった。貴方が金平糖を下さった意味も、正直分かっていなかったんです。見えないものなら、見えないままでいい。見えたって、何の意味もない。人造人間の僕は、元々普通ではありませんからね」

「お前は確かに他の人造人間より歪な存在だったよ。他のヤツらは感情をフルに持っていた。それなのにお前は、何を見せても、笑うことをしなかった。感情がが欠落しているという欠陥も持ち合わせているのかと思わせるほどにな」

「感動なんてありませんよ、色が見えないんですから。俺は他の人達がおかしいと思っていた。何を見ても騒いで、笑顔になって、時には涙まで流す。そんな人たちを、俺は見下していたのかもしれない。馬鹿みたいだと、思っていたのかもしれない」