馬鹿みたいな会話をして、私達は物理室を飛び出した。

荷物は全て学校に置いたまま、体一つで廊下を駆け抜ける。
背後から怒鳴る先生の声も、風であまりよく聞こえない。

聞こえているのは、彼の声だけ。

私の好きな、優しくて、穏やかな、あの少し高い声。
頭の中で、片時も忘れられない、私が初めて恋をした、天馬の声。

初めてだった。

守りたいと思ったのは。

守りたいと思ったものなんて、今まで何もなかった。

日々が死ぬほど退屈で、どうしようもなかった。

毎日、眠くて仕方なかった授業中も、彼を見ている時間が増えて、起きている時間が寝ている時間より多くなった。

本だって、好きな本が増えた。

あまり好きじゃなかった写真だって、彼が褒めてくれたおかげで、好きになってきた。

それに、青柳颯太のことも。

こんなに不器用で、寂しがりやで、優しいヤツ、今までに会ったことがなかった。

ぶつかったこともあったし、辛くてどうしようもなかったこともあったけど、どれもすごくキラキラしてて、色鮮やかで。

全部全部、天馬のおかげ。

天馬にも見えていたんじゃない?

目で見えなくたって、こんなにキラキラしたみんなの笑顔の色は、きっと心が綺麗な君なら、誰より鮮やかに見られたんじゃない?