あいつが会場に入った直後、追いかける俺の行く手を阻むかのように入口を炎が包み込んだ。


「ヒナ!!」


火の勢いに後ずさりしながら、中に向かって必死に叫ぶ。


「何やってるんだ!!」


突然、男に後ろから羽交い締めにされた。
視界をちらつく銀色の服。


「中に戻った奴がいるんだよ!」

「何だって!?」

「早く助け……っ」


そこまで言って、俺は激しく咳こんだ。

喉にまとわりつく煙の味に具合が悪くなりそうだ。
外でさえまともに息が吸えないのに、あいつは会場の中にいる。


「中に人がいるらしい、行けそうなら窓を割れ!早く!!」


体格の良い消防士は、俺を拘束したまま無線で指示を飛ばす。

当たり前かもしれない。でも今の俺は悲しいほどに役立たずだった。


「ヒ……」


何度目かに彼女の名前を呼ぼうとした時

俺の目の前で、燃え残っていた天井のもう半分が崩れ落ちた。