スローシンクロ 〜恋するカメラ女子〜

「西澤さんだ……」


ワンピース姿で海をバックに一人佇むその女性は、西澤さんに間違いなかった。

といっても、この間の撮影で会った時とはどことなく雰囲気が違っている。

おそらく数年前。春木さんと付き合っていた頃の写真なのだろう。


埃っぽい部屋の隅に座り込み、時間を忘れてそれを眺めた。


長い髪が風になびいている。
今にもシャンプーの香りが漂ってきそうな気さえする。

こちらを見つめる西澤さんの物憂げな表情が、ますます彼女の印象を儚いものにしていた。


後ろには青い空と澄んだ海。
まるで絵画のように作り込まれた世界観だ。


春木さんは、かつての恋人に何を感じてシャッターを切ったのだろう。
何を思ってこの写真だけ別に保管していたのだろう。


私にそんな事わかりっこない。

答えを探そうとする事すら不躾な気がした。
必死で春木さんの心の中を覗き込もうとしているようで。



何だか呼吸がしずらい。

自分の体なのに、どこが痛むのかわからなかった。