「もっと右、右……ストップ!オッケー」

「次の持ってきてー!」


春木さんの個展が一週間後に迫っていた。

業者の手によりパネルの搬入が進み、会場内では大勢の人が忙しく働いていた。
もちろん春木さんと私も朝から各方面のチェックに駆けずり回っている。

昼食をきちんととる時間も無く、床に座っておにぎりを食べていると後ろから肩を叩かれた。


「今一回事務所戻れる?」

「はい。何か持ってきますか?」

「残してある過去の作品全部。物置の方にデータ化してDVDーRにまとめてあるから持ってきてほしいんだ。あとUSBに残してあるやつもな。あと写真に焼いてあるやつも」

「全部ですか!?それって莫大な量なんじゃ……」

「ん、まぁ段ボール一箱分くらいだろ。お前ならいける。んじゃ、よろしく」


春木さんは天才的なさりげなさで私の手からおにぎりを奪い、立ち上がる。


「あ!それ食べかけ……」


私の声を無視し春木さんは奥へと消えた。

空っぽになってしまった右手を意味もなく見つめる。