外に出ると、街はまだまどろんでいた。
寝起きの痺れるような気だるさが全身を包む。

ジルの家はパリの郊外にあるため、周囲はとても静かだ。
澄んだ空気を胸いっぱいに吸い込みながら、夜が過ぎ去ったばかりの空を見上げた。


「……」


昨日の夜はよく眠れなかった。
あいつの悲しそうな瞳が、頭から離れなかったから。


本当はわかっていた。彼女のせいじゃない事なんて。


もちろん、盗まれたカメラ一つしか持っていない訳じゃない。
それでも写真家として有名になる前から愛用していたフィルムカメラを失ったショックは大きかった。

つい我を忘れて彼女を責めたててしまったほどに。



「八つ当たりだったよなぁ……」



あいつは眠れただろうか?

いや、きっと無理だろう。
必要以上に責任を感じているんだろう。


今日の昼には俺たちはパリを離れる。
それまでに自分の中できちんと諦めをつけなければいけない。

そんな事を考えていた時だった。