スローシンクロ 〜恋するカメラ女子〜

スタジオの隅には何やら深刻な顔で電話をしているスーツ姿の男性がいた。

首にブランドのロゴマークが入った社員証を下げている。
彼が担当の社員のようだ。


「何で?」

「今朝まで京都でテレビの仕事してたらしいんだけど。乗るはずだった飛行機が飛びそうにないんだって」


このブランドのカタログ撮影は、毎年一人しかモデルを使わない。

掲載するドレスが数着しか無いため、全てを順番に着用し、髪型やメイクを変えながら撮るのだ。

その一人が来ないのでは話にならない。


おまけにこのスタジオを使用できるのは三時間だけだと聞いている。
何が何でもそれまでに撮影を終わらせる必要があった。


「モデルが来ないって、どうすんの」

「さぁ?私に聞かれても」


ずらりと並ぶ矢吹さんのメイク道具の横で、ハンガーに綺麗にかけられた色とりどりのドレスが揺れていた。


眩しいくらい鮮やかな赤や、黄色。
優しいパステルピンクのドレスもあった。


今更だが、これはいつ着るためのドレスなんだろう。
何かのパーティーだろうか。
結婚式に出席する時とか?

女の世界の事はわからない。


どうでもいい事を考えて時間を潰していると、電話を終えた男性社員が浮かない顔でやってきた。