オーナーとの電話を終え、携帯を静かにテーブルに置く。

しばらくそのまま動けなかった。


窓の外にはだんだんと夜が忍び寄ってくる。


一度は絶たれた個展という夢をもう一度掴むチャンスが、思いがけず早くやってきそうだ。
胸の奥にじわじわと広がるのは、喜びだけじゃない。


決定的に何かが足りない。



俺の個展が開催されると知った時、ヒナはどこにいるんだろう。
もう一度喜んでくれるだろうか。


彼女の匂いだけがそっくり失われた事務所の中で
頭を巡るのはそんな想いばかりで


そんな事を願う権利はもう俺には無いのに。



『アシスタントの女の子も喜ぶだろう?』



こういう事か。
あいつを手放すというのは、こういう事なのか。



これ以上無いほど嬉しいニュースのはずなのに
心のど真ん中に空いた穴が埋まらない。