重たいキャリーケースを引きずりながらしばらく歩き、見覚えのあるアパートの前で立ち止まる。


「何だ。いるじゃん」


見上げた部屋の窓にはカーテンが引かれていた。
既に引っ越しているんじゃないかと頭の片隅で考えていたが、そうではなさそうだ。


「……」


考えてみれば、あいつにはもう岳がいるんだった。
俺の出る幕じゃないのかもしれない。

だけど。



「顔だけ見ておくか。」



自分に言い訳するように呟いた。

どうしてもあの電話での様子が気になった。
何もないなら別にそれでいい。


共有玄関の扉を開けふと足下に目をやると、一枚の紙が落ちていた。