彼女の家の最寄り駅で電車を降り、記憶を頼りに歩みを進める。

深夜まで及んだ撮影の後、一度だけ車で家まで送った事があった。


方向音痴な方ではない。
大体の道筋は覚えているし、あとはアパートの外観を見ればそれだとわかるだろう。


ふと歩道脇に目をやると、桜が咲いていた。
満開まであと一歩といったところだが、大きな木の枝を埋め尽くす花は、既に十分に見応えがある。

春風に乗って
ひらり、と花びらが一枚だけ落ちた。



「……」



ヒナは、もう
東京の桜を見ただろうか。