スローシンクロ 〜恋するカメラ女子〜

通行人のジャマにならないよう、歩道沿いにある花壇の裏まで移動する。
花壇を背にして崩れるように座り込み、携帯電話を取り出した。

呼び出し音を聞きながら
祈るような気持ちで目を閉じる。



『……なに?』



やがて
電話は海の向こうに繋がった。


『お前なぁ。こっちは真夜中なんだけど』

「そう、でした……すみません」


腕時計で確認すると、時刻は午後5時過ぎだった。
ニューヨークは午前3時という事になる。


一週間ぶりに聞くその声は、寝起きであるせいか少し掠れていた。



『ヒナ?』

「……」

『どうした?』



何を言ったらいいだろう。
何を伝えたかったんだろう。

何の言葉も用意していなかった事に、その時初めて気が付いた。


もう一度だけ春木さんの声が聞きたい。

ただそれだけだった。