「ぱふとーと?」

「……とりあえず、そのたい焼き食い終わってから喋ってくんない?」


私は慌てて口に咥えていたたい焼きをんぐっと飲み込んだ。
春木さんを訪ねてきたお客さんに差し入れとして貰ったものだ。
控えめで上品なあんの甘さに心が癒される。

「まぁいいけど。で、パスポート。ちゃんと持ってんの?」

「パスポート、は…持ってないです」


この歳まで海外へ行く機会に恵まれず、何となく取得しそびれていた。
はぁっと春木さんがわざとらしくため息を吐く。


「どうせそうだろうと思った。今すぐ申請してこい。ギリギリ間に合うから」

「間に合うって?何にですか?」


春木さんの顔はイタズラを思い付いた子どものように輝いていた。



「パリに行くぞ。着いてこい」