「ごめん」


逞しい腕の中で
優しい鼓動を聞いた。


「ずっと謝りたかった。巻き込んでごめん」


体の力が抜けていく。
抱きしめられたまま、二人一緒に床に座り込んだ。

一條さんのシャツには私の涙が点々と染み込んでいる。


「焦ってたんだ。ヒナちゃんの事取られそうで」

「とられる…?」

「まさか解雇するなんて思わなかった」



頭が上手くまわらない。
私が、誰に取られるの?



「……ヒナ、」



一條さんは一段低い声で私を呼んだ。

聞き慣れない響きに心が揺れる。

体を離し、見つめ合った。



「俺にしときな?」



この前よりもゆっくり重ねられた一條さんの唇は
しっとりと湿って、温かかった。