春木さんが事務所を出て行った後
私はへなへなとその場に座り込んだ。


体中に5個も6個も心臓があるみたいだ。
ものすごいスピードで血が巡る音まで聞こえる気がする。



いま
キスされそうに、なった……?



首筋に生々しく残る、春木さんの唇の感触。
私を見下ろす熱っぽい瞳。
掴まれた手が痺れるように痛む。



「なんで……」



頭の中がぐちゃぐちゃに散らかって、立ち上がる気力すら湧いてこない。

彼の気持ちがわからなかった。



『俺が平気じゃないんだよ』



繰り返し、繰り返し。

その言葉ばかり心でなぞった。