ヒナ、と名前を呼ばれた。
炎の向こうで何度も何度も呼んでくれた。

それだけで、もう命なんて惜しくなかった。

そんな事言うと、また怒られそうだけれど。


「……」


加湿器がこぽん、と音をたてた。

窓の外は一滴だけオレンジを混ぜたような、深い藍色に染まっている。

内緒話みたいな密やかさで
夜が冬を連れてやってくる。


切ないほど静かな夜だから、


春木さんの華奢だけれど大きな手に
右目の下に薄く浮かんだ隈に
柔らかな癖毛に

触れたいと思ってしまった。



抑えていた気持ちが溶けだしてくる。
形を成してしっかりと私の心に根付く。



私は

春木さんの事がとても好きだ。