「それじゃあ、六つ目、いくよ?」
『ぃやっ、もうやめてよ!!!』
私の叫びは、お兄ちゃんには届かない
びり、とまた紙人形が裂かれた
その瞬間、私の体に、傷が増えた
生まれる痛みと、溢れだす生命の証
耐えきれず、私は叫んだ
「ははは、痛いの?いいね、もっと痛がってみせてよ」
お兄ちゃんは心底楽しそうに笑った
そして私に無理矢理に着せたお兄ちゃん好みの真っ白いドレスに、また紅いシミが増えていく様子を、じっくりと観察して、また言った
「それにしても、これもいいなぁ・・・
ずっと笑顔にする事しか考えてなかったから、羽瑠(はる)のそういう表情、見た事なかったんだよね
でも・・・痛がった、怖がった、絶望した目の方が、ずっと、ずぅっと、ぞくぞくする・・・」
その、お兄ちゃんの言葉に、ぞくぞくするよ
ツッコミ体質は、生命の危機に陥っても、なぜか機能した
いやむしろ、今だからこそなのかもしれない
私はさっきまで瞑っていた目をうっすらと開けて、今しがた痛みが走った右腕を見た
大きなリボンと、たくさんのレースとフリルは、肌に張り付いて、赤く斑模様になってしまっていた
「綺麗だよ、羽瑠
羽瑠は存在の全てが美しい
は、はは・・・だからこそ、誰も触れないようにしてきたんだ・・・」
壊れた喋る人形のように、お兄ちゃんは笑った
『お、にい、ちゃん・・・?』
私が呟くと、お兄ちゃんの顔からすっと表情が消えた
「なのに・・・アイツは、羽瑠を視界に入れた
羽瑠に声をかけた
羽瑠に触れた
羽瑠に好意をもった
羽瑠に、俺への反抗心を抱かせた
それだけで、死ぬ理由は充分だと思うだろ?」