「お兄ちゃん・・・!なにしてんの!?」
「来んな!来たら絞める」
お兄ちゃんの手に握られていたのは、点滴の管。
お兄ちゃんの精神状態は、もう限界だった。
「お兄ちゃん、落ちつこう。
落ちついて、それ離して?」
それでも私は冷静さを保ちながら声をかけて、ゆっくり近づいていく。
「・・・もう、オレなんかが生きてても迷惑だろ?
早く死んだ方がいい・・・」
「なに言ってるの、お兄ちゃん。
どうしたの?
なにか不安になったなら、私に言ってよ」
お兄ちゃんの隣に座って・・・
管が握られた手をとった。
……とても冷たくて、震えていた。
「もう、嫌になっただろ?
こんな姿見るの。
もう、オレには生きる意味なんてない。
笑美・・・そばにいてやることなんて、もうできないよ。
だってオレ・・・死ぬんだから!」
「あっ、お兄ちゃんダメ!やめて!」
私の手を振り払って、再び管を首に巻きつけようとしている。
「離せよ・・・!」
「やめてお兄ちゃん・・・お願いだから」
首を絞めようとするお兄ちゃんの手を、私は無我夢中で止めた。
「離せ・・・離せって・・・!」
お兄ちゃんの力、強い。
「早く死なせてくれよ・・・!」
「なにバカなこと言ってるの。やめてお兄ちゃん!」
「……っ、勇生!」
「バカ、何してんだよ!」
るなさんと大樹くんも部屋に入って来たけど、2人の声はお兄ちゃんに届いていない。
「もう……死なせてくれよ…!」
「……っ、いい加減にして!」
パチン!
「……っ!?」
やってしまった。
お兄ちゃんの頬を叩いてしまった。
お兄ちゃんがびっくりした顔をして、私を見つめている。
「もう、オレには生きる意味なんてない・・・?
そんなこと言わないで!
お兄ちゃん、忘れたの?
お前とずっと一緒にいようと思った。
私を泣かせないように、ずっとそばにいようと思った。
修学旅行のあと、言ってくれたよね?
だから・・・」
「できないよ。あと2週間しかないんだ・・・」
「2週間だろうが2日だろうが関係ない!
お兄ちゃん、生きてよ。
お願い・・・私を、1人にしないで・・・!」
私の心の底からの叫びだった。
「勇生、お前がいなくちゃ、オレらサッカーできないよ。
先輩たちも引退して、全く勢いがつかないんだ」
「勇生、みんな、あんたに会いたいって。
元気になってくれなきゃ困るよ・・・」
「大樹・・・るな・・・」
「お兄ちゃん、何もしてくれなくたっていいの。
生きててくれるだけで、いいんだから・・・」
「・・・・・・笑美っ・・・ごめん」
お兄ちゃんの手から、管が離れた。
そして、お兄ちゃんは私を強く抱きしめてくれた。
生きるから────
そう言ったような、強くて、優しい力で。

