君との距離

彼女も一応、バレンタインチョコを持って来ていた。
袋いっぱいに。きっと頑張って作ったんだろうな...
でも同じ包装紙ばっかりだった。
つまり周りの女子はみんな騒いでいる中に彼女は入れていないのだ。
交換ぐらいしてやってもいいじゃないか。
この騒ぎ声がどれだけ彼女の心をえぐっているのか分からないのか?馬鹿なのか?
女子って恐ろしいな。尚更苦手になった。

包装紙を睨んでいるとその不審な視線に気付いた彼女は口を開いた。その時、僕は初めて彼女の声を聞いた。もう1年もクラスメイトやっているのに。
「 ・・・いる?」
今にも消えそうなか細い声。でも心に響くとても優しい声だった。
「 えっ!?い、い、いやっいいよ!!?」
落ち着け僕!突然の出来事+コミュ障、更に女子との会話経験が少ない僕は声が裏返りながら答えてしまった。やってしまった。絶対変な人だと思われた。
せっかく彼女から話しかけてくれたのに。
本の話し、してみたかったな。
まるで世界の終わりのように無念を唱えていると...
「 ・・・貰ってくれると嬉しいな。ほら、この通り沢山余ってるし...ゴミみたいだけど、要らないなら捨てていいから...」
甘えるような声で彼女が答えてくれた。
ってかゴミとかいうなよ。
こっちまで切なくなるだろ・・・
「 じゃ、じゃあお言葉に甘えて貰わせていただきます」
相変わらず言葉遣いは最悪だったけど、素直に言えた。良かった。

彼女はにっこり笑って、再び視線を戻した。
その日はもう話さなかったけど、何だか心が繋がった気がした。