君との距離

夕焼けに照らされた彼女の髪に淡いグラデーションがかかる。

なんで、どうしているんだ?帰ったはずだろ?
頭の中に疑問が飛び交う。
するとそれを読み取ったかのように彼女は言った。
「 去年の、バレンタインのお返しを請求しにきた」
...なんて図々しい。
それにやっぱり、彼女は変わった。
前みたいにつまって話すこともなく、普通に明るい女の子だ。
そんなのとっくに知っていたのに改めて実感すると辛い。

「 あぁ・・・はい、渡す機会がなくて・・・」
ともあれ予め用意していたプレゼントを渡す。常識人として何とか冷静にあしらう。
自分で言ったのに予想をしていなかったのか彼女は驚いた顔で包装紙を見つめている。が、すぐに戻りありがとう、と言った。
夕陽に照らされた彼女の笑顔はそれはもう美しいの一言では表せないけど、きっとこれは夕陽のせいだけじゃない。

「 それだけ...しつこくてゴメンね、ありがとう」
そういうと彼女は僕の前を通り過ぎていく。

まって―――
しかし、その言葉は声にならず白い息に変わってしまう。
何やっているんだ、僕は。
今ならまだ間に合う。誰もいない。
結果なんてどうでもいい。どうせ今日で全部終わりだ。
後悔を作るより、自分1人の黒歴史を作った方がよっぽどマシじゃないか。
勇気出せ、頑張れ、僕ー。


「 待って―」


今にも消えそうな、震えた声。相変わらず女々しいな。まるであの時の彼女みたいだ。でも、彼女は変わった。置いていかれてたまるもんか。僕だってやる時はやるんだ。現にこうやって自分から声をかけれた。


彼女との距離は約100m。僕がどんなに猛ダッシュしても20秒はかかる距離。
それなのに彼女は振り返ってくれた。
まるで今から言う僕の言葉を予知しているような切ない顔。
それはどっちの意味なんだろう?

一歩、また一歩。
彼女にゆっくりと近づく。
目の前には彼女がいる。余裕そうな笑顔。
くそっ、そんな顔どこで覚えたんだよ。
少なくとも僕は知らない。





「 好きです」




四文字の短い言葉。でもそれは僕の精一杯の気持ち。


彼女は笑った、また。
でもその顔はいつもと違う笑顔。
誰にも見せたことのない鮮やかな涙の浮かんだ笑顔。

僕達は夕陽の中を歩きだす。
一緒に。




僕たちの距離がゼロになる――