「康雅」
僕は小指を立てる。
男同士の約束、しよう。
なにを?と康雅が尋ねる。
「それはそれぞれの秘密だよ。小指絡めて、僕は康雅に約束すること、康雅は僕に約束することを心の中で呟く。」
恋人同士かよと照れながら、
「わかった。」
と応じる康雅。
弘貴に指を絡めると目をつぶり、静かに小指に力を込めた。
僕も目をつぶり、康雅に返すように小指の力を強めた。
2人が目を開けると、窓からは2人に微笑みかけるような真っ赤な太陽が見えた。
とても温かい時間が流れていた。
「もうこんな時間か、そろそろおばさん来るかな。」
そう言っているうちに部屋の扉が開いて、おばさんの顔が覗く。
「ちょっと遅くなっちゃったかしら。弘貴くん、行きましょうか。」
僕が立ち上がると康雅の手が強く僕を引き止めた。
「今日はありがとう。約束、きっと守るから。」
「うん、きっと守るよ。」
康雅の手が僕を放した。
じゃあ…、また。
僕が扉の前まで歩いた時、康雅の声が再び僕を引き止める。
「弘貴、かっこよかったぞ。1人で予告なしにこんなとこまで来て、かっこいいお別れだったぞ。」
僕らは最後に声を上げて笑うと、それからはなにも言わずに別れた。
病院を出て見た大空は、僕らの次を保証してくれているようだった。
近くないから不安になることもあるけれど、近くないから今までよりもっと大切に思える。
僕の言った大丈夫はきっと嘘にならない。
お前のくれた「ありがとう」みたいに。