それから眠れぬ夜を2度、頭に入らない授業を2日経て、待ち焦がれた土曜日が訪れた。
週中は駄目だと、両親からきつく言われていたからだ。
先生に無理を言って教えてもらった新しい住所だけを頼りに、新幹線に乗る。
人から人へと聞き回り、見つけた康雅の家の前で1つ深呼吸をする。
自分の指先がインターホンから少し高めの呼出音を響かせる。
遠くから、懐かしい康雅の母の返事が聞こえる。
徐々に足音がこちらに近づいてくるのがわかって、僕は自分が震える感覚を鮮明に覚えた。
ガチャッと音がして、扉が開く。
「あら、弘貴くん」と康雅の母は僕を確かめるように見た。
「こんなところまでどうしたの、1人?」
準備していたはずの言葉がなかなか出て来ない。
「あ、あの、どうしても康雅くんに会いたくて来ました。」
上ずった声で慌てたように話す僕に、おばさんは切なそうな優しい目でうなづいてくれる。
ありがとう、じゃあ行きましょうと言うおばさんに、つい、え?いいんですか?と聞いてしまう。
康雅に会うために来たのだが、心のどこかではもう会わせてもらえないのではないかと不安でたまらなかった。
その不安が肩からふっと下りると、今までの緊張の壁が崩れて、僕は泣いてしまった。
僕の手を包むおばさんの手は温かく、「大丈夫、大丈夫」と言っていた。