「弘貴、俺、弘貴のこと全部忘れちゃうかもしれなーい。だから九州の病院に行くために引っ越すかもしれなーい。」
「え?ちょっ…康雅それどういうこと?全然話がつかめないんだけど。」
動揺する弘貴に向かって、康雅はハハッと悪戯に笑う。
「冗談。」
弘貴は一気に脱力する。
そういう冗談はやめろと、目まで切なそうにして悪戯をした康雅に怒った。
脳にできた血腫を取り除く手術を行って以来、脳外科通いの康雅が、記憶がなくなるだとか病院を移るから引っ越すだとか、そういう冗談を言うのは最もリアルで、最も弘貴の心臓に悪い。
もうやめてくれよと言うように弘貴が眉を寄せる。
「本当に心配したんだからな。康雅がいなくなったらどうしようって、本気で思ったんだからな。」
弘貴って本当に騙されやすいよななんて笑って言えたのは表だけ。
心の中の本当の自分は、今弘貴からもらった言葉だけは、忘れることなく大切に守っていこうと強く誓っていた。